東京高等裁判所 昭和40年(う)1546号 判決
被告人 池錫奉
〔抄 録〕
論旨は、要するに、原判決は判示第二の外国人登録証明書不携帯の事実に外国人登録法第一三条第一項、第一八条第一項第七号を適用処断しているが、右各法条はいずれも憲法第三一条、第一四条第一項に違反する無効の規定であるから、原判決には判決に影響をおよぼすことの明らかな違憲無効の法令を適用した誤りがあり、到底破棄を免れないというのである。
よつて、先ず憲法第三一条違反の主張について按ずるに、外国人登録法は、本邦に在留する外国人の居住関係および身分関係を明確ならしめ、もつて在留外国人の公正な管理に資することを目的とする法律であつて、右の目的を達成するため在留外国人に対し新規登録、居住地その他の変更登録の申請を義務づけているほか、第一三条第一項において登録証明書携帯の義務のあることを規定している。おもうに、在留外国人を公正に管理するうえにおいては、必要に応じ直ちにその居住関係および身分関係を明らかにさせる要のあることは明らかなところであり、そのため前記登録申請義務のほか更に登録証明書携帯の義務を認めることは理由のないことではないのであつて、この点在留の問題を生ぜず登録証明書の携帯を必要としない日本人とその取扱いを異にすべきは当然のことといわなければならない。そして、右携帯義務違反の実質的違法性が軽微であるとしても、これに刑罰をもつて臨む価値なしとしないのであり、かかる相当の理由があつて設けられた刑罰法令にいかなる刑を定めるかは立法機関に委ねられた立法政策の問題であつて、憲法適否の問題でないから、たとえ右携帯義務違反に対する同法第一八条第一項第七号所定の最高懲役一年という刑罰が住民登録法違反、戸籍法違反に対する制裁に比して重く、かつ、その種類を異にしているからといつて、それをもつて直ちに憲法第三一条違反の問題を生ずるものではない(昭和二三年一二月一五日最高裁判所大法廷判決、判例集二巻一三号一七八三頁、昭和三四年七月二四日同第二小法廷判決、判例集一三巻八号一二一二頁参照)。次に、憲法第一四条違反の主張について按ずるに、外国人登録法は前記の目的を達成するため人種や社会的身分の如何を問わず本邦に在留するすべての外国人に対し管理上必要な手続きを定めており、このような規制はわが国のみのことではなく、等しく諸外国においても行われていることであり、何ら人種や社会的身分により差別待遇をする趣旨に出たものではない。そして住民登録法においては登録証明書の携帯を義務づけていないのに、外国人登録法においてはこれを義務づけたうえその義務違反に対する罰則をも設けたとしても、それは前記のとおり本邦に在留する外国人に対するか否やの点において、取締の対象を異にし、各法の目的を達成するうえにおける必要性を異にするによるものであつて、これをもつて直ちに在留外国人を日本人と理由なく差別するものとはいえない。更に外国人登録法違反で問擬される者の殆んどが在日朝鮮人であり、その余の外国人にはその違反が殆んど問擬されないとしても、そのことは同法に関することではなく、同法の問題としてこれを論ずべきことがらでもない。ひつきよう外国人登録法の前記各法条は外国人を日本人と、ないしは朝鮮人をその余の外国人と理由なく差別するものではなく、右各法条は憲法第一四条第一項に違反しない(昭和三〇年一二月一四日最高裁判所大法廷判決、判例集九巻一三号二七五六頁、前記昭和三四年七月二四日同第二小法廷判決参照)。さすれば原判示第二の事実に外国人登録法第一三条第一項、第一八条第一項第七号を適用した原判決は正当であつて、もとより所論のような法令適用の誤りはなく、論旨は採用し得ない。
(松本 海部 石渡)